Mutilaties — Irma Boom / Heté Selection
¥29,500 ($186.57)
ページを繰ると、指が止まる。
半円形に、カットされている。
次のページも、その次も。
432ページ、すべてに同じ欠損がある。
破損した本を、間違えて受け取ったのかと思う。
けれど違う。
切り込みの深さも、弧の描き方も揃っている。
これは事故ではない。
最初から、傷つけられた本だ。
『Mutilaties』は2017年、オランダの紙資料保存プログラム「Metamorfoze」の20周年を記念して制作された。
書籍、新聞、手稿。
時間とともに失われていく紙の資料を、どう後世へ残すのか。
その「保存」を主題に、わずか750部のみ制作された一冊です。
数が限られているものほど、傷つけず、きれいな状態で残したくなる。
けれどIrma Boomは、その750冊すべてを、最初から欠損させた。
残すためにつくられた、
最初から完全ではない本。
その矛盾は、眺めているだけでは終わらない。
ページをめくる。
指が切り込みの縁に触れる。
少し引っかかる。
紙と紙が擦れて、乾いた音がする。
もう一枚。
また、音がする。
画面なら、指を滑らせれば次の情報が現れる。
何度スワイプしても、画面にはほとんど痕跡が残らない。
でも、紙は違う。
読むという行為が、本の側にも残っていく。
擦れ、折れ、毛羽立ち。
触れるたび、本は少しずつ新品から遠ざかっていく。
それは劣化なのか。
それとも、その人がこの本を読んだ時間なのか。
デジタル化すれば、文字や図版という「情報」は残せる。
では、紙をめくる音は。
指先に感じた抵抗は。
手の中にあった432ページの重さは。
何度も触れることで変わっていく、その一冊だけの状態は。
情報を保存することと、
本を残すことは、同じなのだろうか。
タイトルの Mutilaties は、損傷、切断、毀損を意味する。
保存を語るために、本を傷つける。
その逆説によって浮かび上がるのは、紙の脆さだけではない。
読むということは、情報を受け取るだけではなく、
触れて、音を聞き、重さを持ち、そしてほんの少し、本を変えてしまうことでもある。
本は、読むたびに傷つく。
だから、その一冊には、読んだ時間が残っていく。
Book Design: Irma Boom
Publisher: Koninklijke Bibliotheek / Metamorfoze
Publication: 2017
Pages: 432
Size: 約 W150 × H210 mm 厚30mm(432ページ)
Language: Dutch
Edition: 750 copies
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