桂離宮【古書 1982年刊】
¥19,800
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毎日新聞創刊110年記念出版された本書。
この写真集の主題は、昭和57年3月に完成した桂離宮御殿整備工事後の御殿である。つまりこの本がまず見せたいのは「壊れた桂離宮」ではなく、6年余りの大修復を経て蘇った「完成後の桂離宮」だ。カラー図版は9頁から217頁まで本全体の三分の二近くを占め、その配列は御殿外観に始まり、中門・古書院、中書院・楽器の間、新御殿、旧役所・臣下控所、外構え、御幸道から松琴亭、松琴亭から笑意軒、燈籠・手水鉢、笑意軒から月波楼へ、という参観順路そのままの構成になっている。読者は実際に桂離宮を歩くように、頁をめくりながら庭園を巡ることになる。続く解説(藤岡通夫「桂離宮の成立過程とその美」217〜259頁)で沿革や作者論が語られ、ここまでが本のいわば「表」の顔である。
だが本のちょうど後半、263頁から風向きが変わる。佐藤理・佐藤英俊による「御殿の工事」が始まり、第一章「工事の概要」、第二章「解体に伴う諸調査」、第三章「完成された御殿」と進む。ここで初めて、桂離宮が定期的に解体され、部材ごとに調査され、組み直されることで「創建当時の姿」を保ってきたという事実が姿を現す。モノクロ図版(297頁〜)には解体中の骨組みや調査の様子が記録され、大和智・佐藤信芳による図面(313頁〜)は全図・平面図・立面図・断面図・矩計図・復原立面図と、建築調査報告書さながらの精度で御殿を記述する。最後に置かれる「部材表」(337頁)は、資材の一覧ではなく、解体時に実測された主要部材の寸法を記録した数値表であり、この本が最終的に、桂離宮の美を数値・図面という最も無機質な形にまで還元して定着させていることを示している。
つまりこの一冊は、前半で完成した桂離宮の美を歩かせ、後半でその建物をもう一度解体し、寸法にまで分解して見せる、という二段構えの構造を持っている。これは、同じ1981〜82年の大修復直後の桂離宮を撮った石元泰博の『桂離宮―空間と形』(岩波書店、1983年)と好対照をなす。石元は装丁を田中一光、解説を磯崎新に託し、一貫して「作品」として桂離宮の空間美を提示し続けた。一方、毎日新聞版は宮内庁長官・富田朝彦の序文で始まり、図面・古図・写真の多くを宮内庁京都事務所・書陵部、国立国会図書館、京都府立総合資料館、奈良国立文化財研究所所蔵のものに全面的に依拠して編まれている。美しい完成形を見せたあとに、その美を成り立たせている工事の記録と実測値までを律儀に添えるという構成は、公的機関の協力のもとに事実を積み上げる、新聞社らしい仕事の仕方の現れと言える。石元の「桂」が写真史に残る芸術作品だとすれば、岡本のこの一冊は、その美の背後にある職人の手仕事と、それを裏付ける記録・数値までも収めた、もう一つの『そしてより地味だが不可欠な』
桂離宮の記録である。
装丁は原弘。日本のグラフィックデザインの基礎を築いた原が手がけた造本は、輸送箱・スリーブケースを備えた大判の函入り仕様で、同時期に毎日新聞社が刊行した『宮殿』(1969年、同じく原弘装幀)と同じ系譜に連なる。中身が工事記録・実測図面という即物的な資料であるのに対し、器としての造本には当代最高のデザインを配するという二重性も、この本の性格をよく表している。
写真:岡本茂男 監修:村田治郎・関野克・宇土條治 毎日新聞社・1982年(昭和57年) 345頁 370×265mm ハードカバー 輸送箱・スリーブケース入り
当時の定価 ¥55.000
コンディション : 良好 ただしページ内に経年相当の黄ばみ等あり。
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