2026/03/21 13:09
すべては一通のメールから始まった―

2014年10月4日、イギリスのファッションエディター、Isabella Burleyのもとに、一通の思いがけないメールが届いた。送り主は写真家のJim Britt。彼女が気に入っていた「Sisters」という写真についての私の書いた記事を読み、プリントを送ろうか?と申し出たのだ。
私が「シスターズ」という作品を知っていたのは、Comme des Garçonsの1988年秋冬キャンペーンの文脈においてだけで、その背景にある物語をずっと知りたいと思っていました。
その後、実際に届いたプリントをきっかけに、二人のやり取りは数年にわたって続いていく。
「Sisters」は1976年に撮影された、ブリット自身の娘たちの写真。思春期前の少女たちの無邪気さと、少しのぎこちなさ、そして飾らない魅力がそのまま写し取られている。矯正器をつけたままの笑顔や、不完全さすらも輝きに変えるその瞬間は、ファッション写真には珍しいリアリティを持っていた。
バーリーにとってこのイメージは、気づけば長年そばにあり続けた特別な存在だった。やがて彼女の手元には、ブリット本人から送られたオリジナルプリントが大切に保管されることになる。
さらにブリットは、この写真の背景や人生の物語だけでなく、同じセッションで撮影された未公開カットも共有した。ほんのわずかな時間差で写されたそれらの写真には、完璧さではなく“瞬間”そのものの美しさが宿っている。
こうして40年の時を経て、「Sisters」とその一連の写真は、初めて広く公開されることになった。それはまるで、小さな奇跡のような出来事だった。
ジム・ブリット「Sisters」
「Sisters」と呼ばれるあの笑い合う姉妹の写真は、彼の娘たちの成長を記録する中から生まれた。もともと音楽活動をしていたJim Brittは、やがて写真に魅せられ、ライカM3を手に娘たちの日常を撮り続けるようになる。
転機は1983年。結婚生活が揺らぐなか、彼はクリスマスの贈り物として、二人の娘だけを写したポートフォリオを制作した。年の近い姉妹の親密な関係を写し取ったその写真群は、彼女たち自身の心も動かす特別なものとなった。
このシリーズはやがて外の世界へと広がっていく。ニューヨークで見せたポートフォリオは『People』誌のフォトエディターの目に留まり、誌面掲載へとつながった。個人的な記録だった写真が、多くの人の共感を呼ぶ作品へと変わった瞬間だった。
さらに1988年、Comme des Garçonsから声がかかる。彼らはこの写真を広告に起用し、作品は『Vogue』や『Vanity Fair』などを通じて広く知られることになる。写真はやがて、日本でも長く使われ続けるイメージとなった。
ブリットにとってこの作品は、「愛するものを撮る」というシンプルな行為の結晶だ。数ある作品のなかでも、「Sisters」は今なお特別な輝きを放ち続けている。

